【2020年4月】改正派遣法でどう変わる?ポイントをわかりやすく解説
2018年6月に成立した働き方改革関連法の整備の一環として、労働者派遣法が改正されました。
改正労働者派遣法(施行日2020年4月1日)は、派遣先会社・派遣元会社だけでなく、派遣で働く方々にも大きな影響をもたらします。
2020年4月改正労働者派遣法のポイント
- 同一労働、同一賃金
- 派遣社員に対しての労働条件などの説明義務
- 派遣元会社が派遣社員の賃金を決定する方法
- 派遣社員の賃金、賞与、退職金、各種手当について
派遣で働く方々にとっては、とくに「賃金・賞与・退職金・各種手当」など、お金の面での影響があります。
そこでこの記事では、派遣社員として働く方向けに、改正労働者派遣法のポイントについてわかりやすく解説しています。
目次
2020年4月1日からの改正労働者派遣法のポイント
① 派遣先の正社員との不合理な待遇差をなくす
2020年4月に施行される、改正労働者派遣法の根底にあるのは「同一労働・同一賃金」です。
同一労働・同一賃金とは
「同一企業内で働く正社員・有期雇用社員・パートタイマー社員の間において、賃金や賞与、福利厚生などの不合理な待遇格差をなくしましょう」というものです。労働者派遣における同一労働・同一賃金とは、「派遣先会社と派遣元会社間で生じる賃金や賞与、福利厚生やその他処遇の不合理な待遇格差をなくしましょう」というものになります。
不合理な待遇とは、筋の通らないやり方で派遣社員の賃金などを決定することです。
例)派遣先会社で同一の業務を行っている派遣先の正社員には賞与や食事手当なども支払われている。
この場合、派遣社員にも賞与・食事手当などを支払わなければなりません。
② 派遣先の正社員との待遇差の内容・理由に関しての説明義務の強化
派遣社員は「雇入れ時」「派遣開始時」には、派遣元会社より労働条件や就業条件などの説明を受けることになります。
2020年4月以降からは「派遣労働者の求めに応じた説明」が派遣元会社に義務付けられました。※「義務」に反した場合は、行政指導の対象になります。
派遣社員は、同じ業務内容の派遣先会社の社員と基本給、賞与、福利厚生は同等でなければなりません。
異なる場合は、その理由を派遣元会社に説明を求めることができます。
派遣元会社については「派遣労働者の求めに応じた説明」は義務であり、派遣社員に待遇差の内容や理由を説明しなければなりません。
また、派遣社員は派遣元会社に説明を求めたことによって、罰則や減給など不利益な取り扱いをされることはないので安心してください。
派遣元会社は、派遣社員が説明を求めたことを理由に、解雇など不利益な取り扱いをしてはならないとされています。
③ 派遣元や派遣先とのトラブルを裁判以外の方法で解決をサポート|裁判外紛争解決手続(行政ADR)
2020年4月に施行される改正労働者派遣法では「裁判外紛争解決手続(行政ADR)」の規定も整備されています。
裁判外紛争解決手続(行政ADR)について厚生労働省の資料では、下記の説明がなされています。
派遣労働者と派遣元または派遣先との間で、次の事項に関してトラブルとなった場合には、「都道府県労働局長による助言・指導・勧告」や「紛争調整委員会による調停」を求めることができます。
この制度は無料で利用することができ、調停等の内容が公にされないため、プライバシーが保護されます。
また、これらを求めたことを理由として、派遣元および派遣先は派遣労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないこととされています。
引用外部リンク:派遣労働者の同一労働同一賃金について
「裁判外紛争解決手続(行政ADR)」についてもっとわかりやすく解説すると、
派遣社員と派遣元会社、または派遣先会社との間で何か問題が発生した際に、
- 裁判を起こさずに、話し合いで満足のいく解決策を作ってくれる
- 問題解決のために行政が間に入って取り持ってくれる
- しかも、問題の内容や個人情報などは漏れることはない
というように、公正中立的な立場で信頼できる第三者が当事者間に入り、話し合いを通じて解決案を作成・提示して、解決を図る手続きをしてくれます。
これを「裁判外紛争解決手続(行政ADR)」と呼びます。
裁判外紛争解決手続(行政ADR)は、今後、日本全国47都道府県の各労働局で対応できるよう整備されます。
また、待遇差の内容・理由に関しての説明についても、行政ADRの対象となります。
「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」のどちらかの方法により、派遣社員の公正な待遇を確保
2020年4月に施行される改正労働者派遣法で、派遣元会社は
- 「派遣先均等・均衡方式」
- 「労使協定方式」
のどちらかで、派遣社員の賃金を決定するよう義務付けられました。
「派遣先均等・均衡方式」とは、派遣先会社から開示された情報をもとに、均等均衡のとれた派遣社員の賃金を決定します。
「労使協定方式」では、派遣元会社で労使協定を締結した上で派遣社員の賃金を決定します。
派遣先均等・均衡方式と労使協定方式について、以下でわかりやすく述べていきます。
① 派遣先均等・均衡方式(派遣先の社員に合わせる)
派遣社員の賃金や待遇を、比較対象者となる派遣先社員(通常労働者)に合わせて派遣社員の賃金・待遇を設定するのが「派遣先均等・均衡方式」です。
派遣先会社から提供される派遣先社員の情報をもとに、派遣元会社は派遣社員の賃金を決定します。
賃金決定のポイント3つ
- 職務内容
- 責任の程度
- 職務内容および人事異動の範囲
この3つが派遣社員と派遣先社員が同じである場合、差別的な取り扱いをしてはならないとされ、派遣先社員(通常労働者)に合わせた待遇にすることが求められます。
また、これは基本給だけに関してではなく、各種手当にも当てはまります。
しかし、正直なところ派遣先均等・均衡方式は、派遣元会社にとっても、派遣先会社にとっても壁が高いのが実情です。
派遣元会社は、派遣先会社に派遣先社員の給与額や福利厚生などの情報を開示してもらうようお願いしなければなりません。
一方、派遣先会社は、それらの情報を派遣元会社に開示しなければなりません。
社員の給与や待遇面の情報は社外秘としている企業も多く、快く開示してくれる企業は多くありません。
② 労使協定方式(派遣元会社と待遇を決定する)
派遣元会社が一定の要件を満たす労使協定を締結し、派遣社員の賃金・待遇を決定するのが「労使協定方式」です。
現状、多くの派遣元会社(とくに大手派遣会社)は、この労使協定方式を適用することの方が多いと考えられます。
労使協定を締結したところで、何を基準に派遣社員の賃金が決まるのか?というと、労使協定方式の場合は、派遣社員の賃金を「同種の業務に携わる一般の労働者の賃金」と同等以上にしなければなりません。
これは、いわゆる世間一般の労働者の、職種ごとの賃金と同等にするということです。
具体的には派遣社員の賃金を、職種ごとの賃金・経験をもとに、厚生労働省が公表する基準賃金額と照らし合わせ設定します。
基準賃金額とは
基準賃金額とは、厚生労働省が公表する
「職業安定業務統計もしくは賃金構造基本統計調査」に「職業安定業務統計地域指数」
を掛け合わせたものです。
(※計算式 職種別の基準値×能力・経験調整指数×地域指数)
派遣先均等・均衡方式と労使協定方式の違いは?
待遇決定の方法 | 賃金 | 福利厚生 |
---|---|---|
派遣先均等・均衡方式 | 派遣先の労働者と均等・均衡 | 派遣先の通常労働者と同じ |
労使協定方式 | 同業業務に従事する通常労働者の平均賃金額以上を支給 | 派遣元正社員と同じ |
かんたんに言うと、派遣先均等・均衡方式は、派遣先の通常労働者と同じで、派遣先が変わるごとに賃金水準も変わります。
これはどういうことかと言うと、賃金水準の高い大企業であれば高い給与を得ることができますが、賃金水準の低い中小零細企業の場合は給与が少なくなるリスクがあります。
2020年の改正派遣法の施行で派遣社員の給与・待遇はどう変わる?ポイント別に解説
① 派遣先企業の正社員と同水準の給与(賞与・諸手当含む)
2020年4月に改正派遣法が施行されて以降、「自分の給与が上がるのか?」が、派遣社員の方にとって1番気になるところです。
まずは、基本給(賞与諸手当含む)についてです。
結論からお伝えすると、これまで支払われていた額より、給与はアップする可能性が高いです。
また、賞与の支給にも期待がもてます。
派遣先均等・均衡方式を採用している場合の賞与について
ボーナス(賞与)であって、会社(派遣先)の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、派遣先の通常の労働者と会社の業績等への貢献が同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。
引用外部リンク:平成30年労働者派遣法改正の概要<同一労働同一賃金>
これはつまり、「派遣先の正社員に対して賞与制度がある場合、その制度に準じて派遣社員にも賞与を支払わなければならない」としたものです。
労使協定方式を採用している場合
毎年6月~7月に厚生労働省が公表する職業安定業務統計、賃金構造基本統計をもとにした時給額に、職業安定業務統計地域指数を乗じた額以上を支給する。
※厚生労働省が公表する職業安定業務統計、賃金構造基本統計の時給額には賞与は含まれていますが、通勤手当や退職金は含まれません。
② 派遣社員への交通費(通勤手当)の支給
通勤交通費にも、同一労働・同一賃金の原則が適用されます。
なお、通勤交通費の支給については2パターンあります。
交通費(通勤手当)について
1時間あたり72円を支給する
例)1日8時間労働の派遣社員であれば72円×8時間=576円を支給
派遣社員の働き方に多い「時給に通勤手当が含まれる」場合は注意が必要です。
1時間あたり72円を通勤手当とするため、時給から72円を控除した額が、基本給・賞与・諸手当の時給額×地域指数を下回ってはいけません。
実費を支給
実費を支給する場合、「通勤手当実費支給 上限なし」とした場合は、一般賃金との比較は不要です。
ちなみに一般賃金とは、同程度の能力・経験をもち、同地域で同じ職種で働く正社員の平均的な賃金のことです。(基本給・賞与・各種手当が含まれます)
③ 派遣社員であっても一定の条件を満たせば退職金が受け取れる
労使協定の対象となる派遣労働者の賃金には、基本給、手当、賞与(特別給与)、退職金が含まれます
引用外部リンク:労使協定方式における点検・検討手順P77
派遣元会社に正社員として雇用されている「常用型派遣」の場合は、退職金を受け取れる可能性が高いです。
しかし、派遣元会社によりますが、登録型派遣の場合は退職金を受け取れる可能性は低いです。※派遣社員には、「登録型派遣」と「常用型派遣」があります。
これまで正社員の特権とされていた退職金についてですが、そもそも退職金制度を導入していない会社も少なくありません。
しかし、労使協定方式を適用した派遣元会社は、以下の通り定められているため、派遣社員への退職金支払いが必要となります。
退職金支払いについては3パターン
一般的な退職金制度に基づいて退職金を支給
これはいわゆる、自社で設けた勤続年数などで算出される一般的な退職金制度です。
その場合、派遣社員に支給される退職金の額が、国の示す額の同等以上である必要があります。
ちなみに国の示す額とは、退職金受給に必要な最低勤続年数および支給月数等の相場のことです。
退職金の費用を毎月の賃金で前払いする方法
これは賃金に退職費用分「6%」を上乗せして毎月支給する方法です。
これは、一般賃金に対する退職金の割合から算出された数値で、2020年は「6%」と決められています。
中小企業退職金共済制度への加入
中小企業退職金共済へ加入し、6%を毎月掛け金として中小企業退職金共済へ納付する方法です。
中小企業退職金共済は、名前からわかるように、中小企業が加入できる制度です。
掛け金を納付することにより、社員が退職する際に中小企業退職金共済から退職金が支給されます。
同一労働同一賃金のルールに違反した場合の罰則はない?
同一労働・同一賃金のルールに違反した場合、刑罰といった意味では罰則はありません。
しかし、派遣法違反による行政指導・勧告・事業改善命令・事業停止命令といった行政処分から、最悪の場合は、派遣事業許可の取り消しや事業廃止命令にまで発展する可能性があります。
下記5つに違反した場合、行政指導・行政処分の対象となります。
行政指導・行政処分の対象となるもの
- (派遣元会社が労使協定方式を適用した場合)事業報告書に労使協定を添付しない
- (派遣元会社が派遣先均等・均衡方式を適用した場合)派遣先会社が派遣元会社に比較対象労働者の情報を提供しない。または派遣元会社が派遣先から提供された情報を3年間保存していない※こちらは派遣先も対象となります。
- 不合理な待遇の禁止等に関する規定に違反
- 待遇等に関する説明義務に違反した場合
- 紛争解決に向け公的機関に援助を求めたことを理由とし、派遣社員へ不利益な取り扱いをした場合
上記5つの罰則に加え、派遣元会社は派遣社員に訴えられ、訴訟や損害賠償請求にまで発展することが考えられます。
2020年4月施行の改正派遣法による派遣会社への影響は?
2019年には消費税の引き上げ、最低賃金の引き上げ、さらに2020年4月に改正派遣法が施行。
派遣元会社についてはお金の面でなかなかの大打撃が続きます。
2020年4月、改正派遣法が施行されると、派遣元会社にはどのような影響があるのか?筆者が想定するリスクは下記の4つです。
派遣会社への影響は?
情報提供に応じてくれる派遣先会社が少ない
派遣契約すら結べなくなる
派遣先会社にチャージアップ交渉に応じてもらえない
時給6%アップ分を派遣元会社ですべて背負うことになる
「派遣料金があがるなら今の契約で終了する、更新はしない」という派遣先会社が増加
いわゆる派遣切り、派遣元会社は多くのスタンバイを抱えることになる
規定やルール作り、就業規則の変更、給与見直しなど派遣元会社で働く人事・総務部署の業務量が増える
派遣元会社で働く人事・総務部署の社員は間違いなく過重労働となる
裏情報ですが、ある派遣先会社が「労使協定方式を適用する派遣元会社としか契約しない」というのを、最近耳にしました。
万が一、派遣先均等・均衡方式を適用する派遣元会社が、この派遣先会社に多くの派遣社員を派遣していた場合は、2020年3月31日をもって多くの派遣契約が終了することになります。
2020年の派遣法改正による「派遣社員・派遣元・派遣先」3者のメリット・デメリット
派遣社員のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
賞与がもらえる | 派遣切りに合う可能性がある |
退職金や各種手当が受け取れる | 業務内容を限定される可能性がある |
評価されモチベーションがあがる |
今回の改正派遣法は派遣社員の人には大きなデメリットはないと考えます。
「派遣先会社のあの人より仕事ができるのに」と感じていた人にとっては、改正派遣法施行後は納得のいく評価を得られることになるでしょう。
また2つのデメリットをあげましたが、評価の高い派遣社員であれば心配する必要はないと考えます。
派遣元会社のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
人件費増加 | |
経営圧迫 | |
新たな派遣先会社の開拓が必要 | |
事務作業や説明に追われ過重労働となる |
見ての通り派遣元会社にはメリット1つもありません。
それもそのはず、本来労働者派遣法は「・・・派遣労働者の保護等に関する法律」ですから、派遣元会社のメリットなど厚生労働省は考えてもいません。
これから派遣社員になろうとする人は、派遣元会社の同一労働・同一賃金の取り組みに関する情報をよく調べて選ぶことをおすすめします。
派遣先会社のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
社外秘情報を提供しなければならない | |
優秀な派遣社員を手離す可能性もある | |
派遣料金が高くなる |
派遣先会社においても、今回の改正派遣法は負担ばかりが増え、メリットのないものとなります。
また、派遣先会社においては、派遣元会社が派遣社員の待遇確保のための措置を遵守することができるよう、派遣料金について配慮義務が課されました。
派遣料金の交渉に一切応じない場合など、派遣先会社が行政指導の対象となる可能性があります。
2020年4月改正派遣法のまとめ
派遣社員がこれだけは理解しておきたい改正派遣法のポイント
- 派遣法改正により同一労働・同一賃金が導入されるのは2020年4月1日から
- 給与アップの可能性がある
- 賞与、退職金、各種手当を受け取れる可能性がある
- 派遣社員の賃金決定は「派遣先均等・均衡方式」もしくは「労使協定方式」のどちらかで決定する
- 待遇差の内容や理由を知りたいときは派遣元会社に説明を求められる
今回の改正派遣法はとても複雑で、サッと資料に目を通す程度ではわかりにくいものとなっています。
ただ、派遣社員の方、これから派遣で働こうと考えている方は、派遣法の改正内容をすべて知る必要はないと考えます。
ですが、お金に関するところはよく理解しておかないと、あとで知らなかったでは済まされないので、ある程度は内容を理解しておくようにしましょう。
とくに参考になったサイト
業務取扱要領といって、派遣法をかみ砕いて説明されたものです。第7派遣元事業主の講ずべき措置P181以降、または派遣法第30条の3~が参考になります。
ちなみに今回の改正労働者派遣法は、派遣労働者の保護を強化する内容となっており、派遣会社にとってはかなり厳しくなることが想定されています。
5分程度で読める内容にわかりやすくまとめたので、2020年4月からどのように変わるのかをチェックしてみてください。