派遣の教育訓練計画の実施が義務化。大手派遣会社の実施内容・取り組み状況は?

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2015年9月30日に労働派遣法が改正され、すべての労働者派遣事業は派遣社員に対して教育訓練を行うことが義務付けられました。

教育訓練計画の実施は、派遣社員のスキル・キャリアアップを図る目的があります。

どのような教育訓練を行っているのか?また、各派遣会社は教育訓練の義務化に対し、どのような対応を行っているのでしょうか?

この記事では派遣社員の教育訓練計画について、その具体的な内容と実態について紹介していきます。

2015年の派遣法改正で教育訓練計画の実施が義務化

労働派遣法の改正で義務付けられた「教育訓練計画の実施」ですが、そもそも教育訓練計画とは一体どのようなものなのでしょうか?

改正法の概要を見ると、教育訓練計画については以下のような実施計画を定めることを求められています。

教育訓練計画の内容

① 実施する教育訓練がその雇用する全ての派遣労働者を対象としたものであること。

② 実施する教育訓練が有給かつ無償で行われるものであること。

③ 実施する教育訓練が派遣労働者のキャリアアップに資する内容のものであること。

(キャリアアップに資すると考える理由については、提出する計画に記載が必要)

④ 派遣労働者として雇用するに当たり実施する教育訓練(入職時の教育訓練)が含まれ

たものであること。

⑤ 無期雇用派遣労働者に対して実施する教育訓練は、長期的なキャリア形成を念頭に置

いた内容のものであること。

参照外部リンク平成27年労働者派遣法改正法の概要|厚生労働省

実施する教育訓練は、全ての派遣社員に対して有給・無償で行われ、それがキャリアアップにつながるための内容であることを求められます。

加えて無期雇用の派遣社員に対しては、長期的なキャリアの形成を念頭に置いた内容であるように定義づけられています。

しかし一方で、この中では「具体的に、何をどのような手段を用いて教えるか?」の詳細についての記載がありません。

つまり、教育訓練の具体的な内容については、各派遣会社に委ねられています。

派遣社員における教育訓練計画の対象者は?

教育訓練計画は、登録型・無期雇用・紹介予定など、雇用形態を問わず全ての派遣社員が対象者となります。

また、教育訓練計画は拒否ができません。

面倒くさいし、できることなら受けたくないという方もいると思います。

ですが、病気や介護などの事情がない限り、受講を命じられた教育訓練を拒否することはできません。

過去に教育訓練を受けた派遣スタッフについては再教育は不要

基本的に教育訓練の対象となるのは、派遣社員として雇用されている全てのスタッフです。

しかし、過去に同じ派遣会社で教育訓練を受けていたり、または別の派遣会社で同様の教育訓練を受けていた場合は、その内容の研修は不要であるとみなされることもあります。

例えば、派遣元管理台帳で同様の内容を受講していたことが確認できたり、記載がない場合でも、事実確認が取れるようであれば再教育は不要だとみなされます。

ただし、同様の訓練かどうかという判断は、派遣会社側に委ねられています。

例えば、派遣会社Aの「ビジネスマナー研修」という教育訓練を受講したスタッフが、派遣会社Bで「初級ビジネスマナー講習」という教育訓練を受ける必要があるのかどうかは、派遣会社Bからは判断がつきません。

こういった状況を防ぐため、それぞれの派遣会社は判断基準を用意して、研修を受ける必要性について判断しています。

パソコンスキルやWordなどのソフトであれば、外部、もしくは独自の確認試験の合否によって判断をすることもあります。

教育訓練は無料。実施時間は労働時間として賃金が支払われる

キャリア形成制度の概要の中で「実施する教育訓練が有給かつ無償で行われるものであること」と述べられている通り、教育訓練の受講時間は労働時間として扱われます。

そのため、原則として教育訓練を受講した時間分は相当する賃金が支払われ、かつ研修自体も無料で受けられるようになっています。

また、教育訓練を受講するためにかかる交通費については、派遣先との間の交通費より高くなる場合は、派遣元事業主において負担すべきものであるとされています。

つまり、教育訓練を受けるにあたって、派遣社員は金銭的な負担に関してはほとんど背負うことはありません。

研修期間・時間は1~3年目は年間8時間以上。4年目以降は定めなし

労働者派遣事業関係業務取扱要領において、研修の期間・及び時間は以下のように定められています。

・入社時には必ず訓練を実施すること

・少なくとも最初の3年間は毎年1回以上行い、その後も一定の期間毎に実施すること

・少なくとも最初の3年間は、毎年概ね8時間以上実施すること

フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者一人当たり)

参照外部リンク労働者派遣事業関係業務取扱要領第3 労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置に係る手続

1年目~3年目、また4年目以降について教育訓練の実施については下記表を参照。

教育訓練 時間 頻度 備考
入職時 必須 定めなし
1~3年目 必須 概ね8時間以上 毎年1回以上 段階的にステップアップできる訓練であること
4年目以降 定めなし 定めなし 定めなし 一定期間ごとに実施すること

就職時・1年目~3年目の間は必須で、1~3年目に関しては少なくとも毎年1回は行うように義務付けられています。

一回あたりの研修時間は概ね8時間以上。

内容は、受講するスタッフが段階的にステップアップできるような訓練であることが求められています。

4年目以降は具体的な研修についての定めはありません。

ですが、だからといって4年目以降受講の必要がないということでもありません。

業務取扱要領において、3年目以降の研修については「キャリアの節目などの一定の期間ごとにキャリアパスに応じた研修等が用意されていること」との記載があるため、4年目以降に一回も研修を設けないことは法に則っていないと見なされるからです。

そのため、派遣会社によって「3年毎に1回」「5年目、10年目に実施」など、4年目以降も異なる基準が設けられ、受講が義務付けられています。

教育訓練の受講方法は「集合研修」「オンライン学習(eラーニング)」が多い

派遣会社が用意する教育訓練には、主な受講方法が2つあります。

一つは、受講者を一箇所に集めて講義を行う集合研修。

もう一つはインターネットに繋いだパソコンやスマートフォンを用いて講義・テストを行うオンライン学習(eラーニング)です。

集合研修は、学校での講義や授業のように講師と受講者が対面で行う場合が多いです。

講師から直接話を聞くことができるほか、疑問点などを直接講師に質問することができる受講方法のため、受講者にとって刺激のある訓練を受けることができます。

一方、好きな時間にどこでも学べる研修方法がオンライン学習です。

パソコンやスマートフォンで講義動画を見た後、そのままテストを受けることができるので、受講者にとっては手間のかからないシステムとなっています。

  • 一般的にはビジネスマナーや、技術職研修などの実技的な内容には「集合研修
  • Wordソフトの使用法などの知識習得には「オンライン学習

が適していると言われています。

【注意点】オンライン学習(eラーニング)で受講する場合

集合研修は受講者との間での調整が難しく、講義を外部に受注する場合は高いコストがかかります。

そのため、最近はオンライン学習(e-ラーニング)を導入する派遣会社が増えています。

eラーニングとは、主にインターネットを利用した学習のことを指します。

しかし一方で、オンライン学習は職場以外の場所でも行えることや、業務の休憩時間にも行えることから、派遣会社と派遣先企業、それに派遣社員の間での受講時間の管理が重要となります。

教育訓練を実施した場合には、『派遣元管理台帳(派遣労働者1人毎に作成されるもの。派遣社員の個人情報や労働時間などを管理する)』に、訓練日時と内容を記載することが必須であり、かつ教育訓練は有給である必要があります。

これは当然、eラーニングを用いた訓練においても同じです。

そのため、派遣社員に「いつ・どれだけの時間をかけて訓練を終了させたか」を管理しておく必要があるのです。

しかし、eラーニングのカリキュラムは、1コンテンツあたりの時間が短く、さらにいつでもどこでも受講できるという特徴から、管理が非常に難しくなっています。

教育訓練は労働の一環とみなされ、賃金が発生することから、例えば、eラーニングの受講時間が所定労働時間外ならば、企業側には残業代などの割増賃金を支払う義務が生じてしまいます。

eラーニングを受講する場合には、派遣会社・派遣先企業だけでなく、派遣社員に対しても、明確な時間の管理が求められるのです。

大手派遣会社の教育訓練の内容・取り組み状況

ここでは、大手派遣会社「スタッフサービス」「パーソルテンプスタッフ」「リクルートスタッフィング」の3社が、どのような教育訓練を行っているのかを紹介します。

スタッフサービスの教育訓練について

参照外部リンクスタッフサービス教育訓練計画概要

対象スタッフ 内容・備考
入職時研修 同社で初就業(短期・長期問わず) 就業にあたっての注意事項、安全衛生教育
年次研修 1年以上の就業見込み ○共通
・テクニカルスキル
(Excel、Word、PowerPoint、Access、
Outlookなど)
・ヒューマンスキル (ビジネスマナーなど)
・ビジネススキル (仕事の進め方など)
○所属サービス領域ごとに受講
・介護職の基本
・エンジニアとしての基礎知識
・製造業に必要な知識

スタッフサービスの年次研修では、共通して受講することができるOAソフト研修のほかにも、専門の業界で働くスタッフ向けの内容も用意されています。

オンライン学習にを採用しているため、インターネット上での受講が可能です。

派遣での就業が初めての方からベテランの方まで、幅広い人材に向けて受講を促しています。

パーソルテンプスタッフの教育訓練について

参照外部リンクパーソルテンプスタッフ教育訓練計画概要

対象スタッフ 内容・備考
入社時研修(短期) 短期契約 「派遣就業にあたっての留意点」
入社時研修(長期) 長期契約 「今後のキャリア計画ガイダンス」
年次研修 1年以上の長期就業見込み/長期継続就業中 毎年1回、会社指定の研修コース群の中から必要なコースを受講

パーソルテンプスタッフでは、長期契約の派遣社員の入社時には「今後にキャリア計画ガイダンス」を設けるなど、とくに長期的に働くスタッフをサポートする体制を設けています。

「キャリア形成スキル研修」 「ビジネス・ヒューマンスキル研修」「テクニカル・専門スキル研修」といった幅広いスキルの形成に力を入れています。

リクルートスタッフィングの教育訓練について

対象スタッフ 内容・備考
入職時研修 同社ではじめて就業する 就業における基本的なルールや心得
年次研修 一定期間以上継続して就業している 年次に応じた研修を受講
(1年次/2年次/3年次/4~5年次)

リクルートスタッフィングの「キャリア形成支援」のページを見ると、就業後にどのようなスキルを身に着け、キャリアを形成していくべきかについて細かく記されています。

法律で定められていない4年次以降についても記載があり、長期的なスパンで派遣スタッフのスキルアップを目指していることが分かります。

教育訓練をうまく活用してスキルアップを目指す

教育訓練について、無償・有給で受講できるとはいえ、通常業務以外の時間で勉強に励むのを億劫に感じる派遣社員もいるかもしれません。

しかし、教育訓練で学べる事項は、派遣社員として働く上での大きな武器になり得ます。

また、いずれは正社員として働きたいと考えている人にとっては、無償でスキルを身に着けることができるチャンスでもあります。

自らのキャリアを上げ、より効率よく業務をこなすためにも、教育訓練はしっかり活用するようにしましょう。